NEDOは2024年12月より、日刊工業新聞の科学技術・大学面において、「NEDO未来展望~イノベーションを社会へ~」と題し、NEDOが推進しているプロジェクト等について、その概要や特徴、目標、現時点での成果等をプロジェクト等の担当者が執筆・紹介しています(年末年始を除く毎週水曜日に掲載)。当Web Magazineではバックナンバー記事を掲載します。

【45】化学産業に「連続生産」 フロー合成で革新(2025年10月15日紙面掲載分)
製造を大幅時短
日本の化学産業は今、バッチ法から連続生産へのパラダイムシフトという技術革新の転換点にある。従来のバッチ法は工程別に処理するもので、中間体の単離・精製が必要、反応効率が低く廃棄物が多い課題があった。連続生産は反応から分離・精製までを一連の流れで処理して中間体の単離・精製を省き、製造時間の大幅な短縮や、エネルギー効率が高く環境負荷が低いため、こうした課題の解消が期待される。
この連続生産を実現するのがフロー合成だ。フロー合成は、製薬・ファインケミカル・農薬から電子材料・化粧品・環境分野まで、あらゆる領域に革新を巻き起こす可能性を有している。その実用化に向け、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2019年度から「機能性化学品の連続精密生産プロセス技術の開発」(フロー合成プロジェクト)を推進している。既に成果は出ており、パーキンソン病治療薬「サフィナミドメシル酸塩」の連続フロー合成では生産効率の3.4倍向上、廃棄物の20%削減を達成した。

フロー合成のイメージ
発信と連携促進
連続生産の技術は確立しつつあるが、現場への導入はまだまだだ。その背景には、設備償却、人材のスキル差、プラントエンジニアの不足、品質保証体制の未整備、そして「前例がない」ことへのちゅうちょがあると思われる。一方、欧米では政策支援により技術革新が加速し、米ファイザーや独BASF、仏サノフィが既に実用化している。
そこでNEDOは支援の軸を「基礎研究」から「成果発信」と「社会実装に向けた連携構築」に転換することとした。中核となるのが、産業技術総合研究所と東京大学が主導するフロー精密合成コンソーシアム(FlowST)だ。触媒・反応・分離・計測などの要素技術を統合し、産学官の交流を加速する枠組みとして、広く大学・産業界に参加を呼びかけている。
世界にアピール
そのFlowSTが後援し、2025年5月、スイスに本部を置くフロー化学協会が長野県で開催した「Flow Chemistry Japan 2025」は、この分野で日本初の大規模な国際学会となった。今後、10月の「化学フェスタ」(東京)、12月の「Pacifichem2025」(米国)、2026年1月の「nano tech 2026」(東京)と内外で化学産業の展示会が開催される。NEDOが率先して日本発のフロー合成技術を世界にアピールしていきたい。

NEDO
バイオ・材料部
化学素材チーム
主査
法月 邦彦(のりづき くにひこ)
日立製作所で省エネルギー型モーターの研究開発業務に従事し、複数の製品化を経験。2024年度より現職。現在は、「機能性化学品の連続精密生産プロセス技術の開発」プロジェクトにおいてマネージャーを務め、企業における研究開発および製品化の経験を生かし、成果の社会実装に向けた取り組みを推進している。