NEDOは2024年12月より、日刊工業新聞の科学技術・大学面において、「NEDO未来展望~イノベーションを社会へ~」と題し、NEDOが推進しているプロジェクト等について、その概要や特徴、目標、現時点での成果等をプロジェクト等の担当者が執筆・紹介しています(年末年始を除く毎週水曜日に掲載)。当Web Magazineではバックナンバー記事を掲載します。

【46】分離回収・次世代磁石 重レアアース確保(2025年10月22日紙面掲載分)
電動化の命綱
再生可能エネルギーの普及を背景にモビリティーの電動化が進む昨今、それらの動力部、発電部として使われるモーターの性能を決める磁石、特にネオジム磁石は基幹部品である。その開発・製造はこれまで日本のお家芸であり、それが日本のモーター産業の競争力の源泉であった。ところが近年、原料となるレアアースの主たる産地である中国からの供給途絶がたびたび生じており、日本のモーター産業、ひいてはモビリティー産業の地位を脅かす事態となっている。こうした事態に対し、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、現在必要な重レアアースの新たな回収技術という資源循環のアプローチと、そうした重レアアースの使用量を削減し、さらに使用しないで済む磁石の開発という省資源のアプローチの両面からプロジェクトを推進している。

重レアアースの資源循環と省資源の取り組み
3つの技術
資源循環の取り組みとして、2023年度から「部素材からのレアアース分離精製技術開発事業」を開始した。コストが高い懸念からこれまで利用されてこなかった鉱石の処理液や廃磁石といった未利用資源から重レアアースの回収に取り組んでいる。特にネオジム磁石の高温耐性に寄与する一方で分離が難しいとされてきたジスプロシウム、テルビウムについて、従来プロセスを革新する三つの技術開発を行っている。
一つ目は原料に含まれる夾雑(きょうざつ)物と重レアアースを効果的に分離する技術である。二つ目は広大な敷地を要する(溶媒抽出装置の)ミキサセトラより設備規模が小さくジスプロシウムとテルビウムの高速分離が期待できるエマルションフローによる抽出技術。三つ目は大量のエネルギーを要する熱還元より低コスト、省エネルギー化が期待できる溶融塩電解還元技術である。
日本が一歩先
一方、省資源の取り組みとして、2024年度から「重希土フリー磁石の高耐熱・高磁力化技術」を開始した。重レアアースを使わない磁石としてサマリウム(Sm)―鉄(Fe)系、さらにすべてのレアアースを使わない磁石としてFe―ニッケル(Ni)系磁石に着目し、粉末製造技術や固化・成形技術の開発に取り組んでいる。耐熱性ネオジム焼結磁石に代替できる次世代磁石を目指すとともに、次世代磁石の特性に適したモーターの設計・開発にも取り組んでいる。
同様の研究開発は欧米でも行われているが、現状はまだ基礎研究段階であり、日本が一歩先を行く状況にある。早期に社会実装を実現するためには、日本の実力を世界に発信することも重要だ。NEDOでは、2026年1月の「nano tech 2026」(東京ビッグサイト)をはじめとする展示会などでアピールしていきたい。
関連ページ
経済安全保障重要技術育成プログラム:研究開発ビジョン(第二次)に基づくプロジェクト/領域横断/重希土フリー磁石の高耐熱・高磁力化技術
ニュースリリース:「経済安全保障重要技術育成プログラム」で重希土フリー磁石/レアアースフリー磁石開発と次世代磁石に適したモーターの設計開発に着手(2024年7月25日掲載)

NEDO
バイオ・材料部
部素材・プロセスユニット ユニット長
製造プロセス・先導チーム チーム長
青柳 将(あおやぎ まさる)
2000年総合研究大学院大学博士課程(理学)修了。米国でのポスドクを経て、2001年産業技術総合研究所入所。2024年よりNEDO出向。材料科学のフィールドで研究と開発のはざまを漂流し続けてきた経験を生かして、産学連携によるプロジェクト推進を支援。