NEDO Web Magazine(STG)

NEDOは2024年12月より、日刊工業新聞の科学技術・大学面において、「NEDO未来展望~イノベーションを社会へ~」と題し、NEDOが推進しているプロジェクト等について、その概要や特徴、目標、現時点での成果等をプロジェクト等の担当者が執筆・紹介しています(年末年始を除く毎週水曜日に掲載)。当Web Magazineではバックナンバー記事を掲載します。

img_nikkan_Page_Hedder_250806.png

【47】CO2分離回収 脱炭素の「現実解」(2025年10月29日紙面掲載分)

注目の技術

二酸化炭素(CO2)分離回収技術をご存じだろうか。世界的な脱炭素の潮流の中で、CO2排出を抑える技術は不可欠だが、再生可能エネルギーだけで全てを賄うのは容易ではない。そこで注目されるのが、化石燃料を燃焼した後に排出されるガスからCO2を分離・回収する技術である。

img_nikkan_251029_Fig_CO2mechanism_2.png

CO2分離メカニズム

科学と工学融合

現在、火力発電や産業プロセスからのCO2回収には「化学吸収法」が広く使われている。アミン系溶液でCO2を吸収し、加熱して分離する仕組みだ。しかし、この方法は大量のエネルギーを必要とし、コストが高い。社会実装を進めるには、回収コストを大幅に下げる革新が求められている。単なる化学技術の改良だけでなく、材料科学やプロセス設計など、科学と工学の融合がカギとなる。

こうした背景の中、京都大学の北川進先生がノーベル化学賞を受賞された。先生が研究を進めてきた「金属有機構造体(MOF)」は、分子レベルでガスを選択的に吸着できる革新的な材料であり、CO2分離回収にも応用されている。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のグリーンイノベーション基金で支援する案件の一つでは、この技術を活用した新しい回収プロセスの開発が進んでいる。

筆者は2024年12月、京大の研究室を訪ね、北川先生と直接意見を交わす機会を得た。静かな研究室で、先生は「基礎研究はもちろん重要だ。しかし、それを社会に届けてこそ科学技術が意味をなす」と力強く語られた。その言葉には、研究者としての覚悟と情熱が込められており、今も鮮明に記憶に残っている。ノーベル賞は基礎研究の成果が評価されたものだが、先生の視線は常に未来の社会実装に向けられていた。

産業に不可欠

カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)社会を目指す場合、CO2分離回収は必須の技術だ。ゴミ焼却設備では食品残渣(ざんさ)の焼却によりCO2が排出される。また、機械工場の表面加工プロセスである「浸炭処理」では原理上炭素が必要であり、鉄鋼業・セラミックス業の高温炉では、1000度C以上の熱が必要であり電化が困難だ。

こうした分野は「ハード・トゥ・アベート・セクター」と呼ばれ、化石燃料からの置き換えが難しく、50年においても、そのセクターから排出されるCO2を回収するため、本技術が不可欠とされている。

CO2分離回収技術は、脱炭素社会に向けた「現実解」であり、日本の技術力が世界をリードする可能性を秘めている。次回はグリーンイノベーション基金の取り組みと、具体的なプロジェクトの進展について紹介したい。

関連ページ


グリーンイノベーション基金事業:CO2の分離回収等技術開発

インタビュー:発電所や工場からの排ガスを対象としたCO2分離回収とは(2023.09.04)

img_nikkan_251029_Profile_OkiMasaaki_1.png

NEDO
サーキュラーエコノミー部
CO2分離回収チーム
グリーンイノベーション基金 CO2分離回収プロジェクトマネージャー/チーム長
大城 昌晃(おおき まさあき)
高校生の頃から、地球温暖化問題に関心があり、技術の力で、温暖化問題に貢献したいと思い、現職。総合エンジニアリング企業にて、CO2排出量の少ないエネルギーである液化天然ガス(LNG)のプラントの設計業務に従事。利用時にCO2を排出しない水素エネルギーの業務を希望し、2016年に異動。世界初となる水素の国際間輸送業務を担当した。2022年にNEDOのグリーンイノベーション基金/CO2分離回収技術開発のプロジェクトマネージャーに着任。

一覧に戻る
Top