NEDO Web Magazine(STG)

NEDOは2024年12月より、日刊工業新聞の科学技術・大学面において、「NEDO未来展望~イノベーションを社会へ~」と題し、NEDOが推進しているプロジェクト等について、その概要や特徴、目標、現時点での成果等をプロジェクト等の担当者が執筆・紹介しています(年末年始を除く毎週水曜日に掲載)。当Web Magazineではバックナンバー記事を掲載します。

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【48】CO2回収コスト減に挑戦(2025年11月5日紙面掲載分)

トン2千円台に

前回、脱炭素に向け二酸化炭素(CO2)分離回収技術がカギになることを紹介したが、今回はこの技術が「現実解」となる可能性について論じたい。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、グリーンイノベーション(GI)基金を通じ、CCS(CO2回収・貯留)を現実解ならしめるため、分離回収技術のコストを今より大幅に低下させる技術開発に取り組んでいる。2030年までに回収コストを1トン当たり2000円台とすることを目標にしているが、現在のコストが9000~1万2000円程度あることを考えると、極めて野心的な挑戦だ。また、この技術は、CO2を循環させるカーボンリサイクル社会における、起点となる技術でもある。

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分離回収コストを削減

6つの技術開発

CO2分離回収技術は発電、鉄鋼業、化学産業など、現在、化石燃料を使用している産業セクターに幅広く適用可能である。そこでGI基金プロジェクトでは六つの技術開発を進めている。

①千代田化工建設、JERA、地球環境産業技術研究機構=アミン化合物を多孔質担体に担持した固体吸収法を開発し、比熱の大きい水溶媒を用いないことでCO2分離回収のコスト削減を目指す。

②デンソー=電圧印加によるCO2吸着・脱離技術に挑戦し、電気エネルギーで分離する新しいアプローチを模索。

③東邦ガス=化学吸収法の高度化に取り組み、未利用の液化天然ガス(LNG)冷熱を活用して運転コストを下げる研究を進める。

④クラサスケミカル、日本製鉄=ノーベル賞を受賞した京都大学の北川進先生の金属有機構造体(MOF)技術を応用し、革新材料を用いること、またその材料に最適なプロセスを構築することによる低コスト化を狙う。

⑤住友化学=川崎市の清掃工場の排ガスからCO2を回収する実証試験を進め、2026年3月に運転開始予定。

⑥エア・ウォーター=大阪・関西万博で実証設備を設置し、多くの来場者に脱炭素技術を体感してもらった。

各案件は2024年度までに、案件開始当初に掲げた目標を達成し、1回目のステージゲート審査を通過することができた。

社会実装を支援

デジタル化やAI(人工知能)の普及に伴い、電力需要は急増している。2024年12月、米エクソンモービルがデータセンター向けに150万キロワット超のCCS付設型天然ガス発電所を建設する計画を発表したことは、今後の潮流を示唆する。

また、日本でも2030年からCCS事業が開始され、回収したCO2の地下圧入が始まる。

化石燃料を使用しながらCO2排出を抑えるCO2分離回収技術は、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)への「現実解」である。第7次エネルギー基本計画では、「エネルギー安定供給、経済成長、脱炭素の同時実現に不可欠である」と記載されている。NEDOはCO2分離回収技術の社会実装を強力に支援し、日本発の脱炭素ソリューションで地球温暖化対策に貢献していく。

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グリーンイノベーション基金事業:CO2の分離回収等技術開発

インタビュー:発電所や工場からの排ガスを対象としたCO2分離回収とは(2023.09.04)

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NEDO
サーキュラーエコノミー部
CO2分離回収チーム
グリーンイノベーション基金 CO2分離回収プロジェクトマネージャー/チーム長
大城 昌晃(おおき まさあき)
高校生の頃から、地球温暖化問題に関心があり、技術の力で、温暖化問題に貢献したいと思い、現職。総合エンジニアリング企業にて、CO2排出量の少ないエネルギーである液化天然ガス(LNG)のプラントの設計業務に従事。利用時にCO2を排出しない水素エネルギーの業務を希望し、2016年に異動。世界初となる水素の国際間輸送業務を担当した。2022年にNEDOのグリーンイノベーション基金/CO2分離回収技術開発のプロジェクトマネージャーに着任。

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